形成外科で扱う疾患


乳房再建

1. 疾患の解説

乳房再建の希望がある、または考えてみたいと思われる患者さんはできれば乳がん手術の前に乳腺外科の担当の先生にそのことを相談されるのがよいでしょう。また、乳がんの手術が終わって、精神的なゆとりができて乳房再建の話を聞いてみたい場合もぜひ相談してください。形成外科医に直接相談されても良いです。形成外科医の方から乳腺外科の先生に連絡をとることもできます。患者さんが希望されればいつでも話をすることは可能ですし、再建をするかしないかはよく話を聞いて決めてください。ただ、乳がんの治療と再建はまったく別のものですから、必ず、乳腺外科で乳がんの定期検診を受けられるようお勧めします。乳房再建を希望される患者さんの多くはきがねなく旅行にいったり、温泉に入ったり、スポーツをしたり、胸の開いた洋服を着たいと考えて決心される方がほとんどです。ひとりで思い悩まないでぜひ形成外科医にご相談ください。

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2. 治療法

ここ10年の間に、乳がんの手術方法も進歩してきました。それに従って乳房の再建法も多様になっています。女性にとっては単に乳房らしいものができるだけであれば手術を受ける意味がありません。私たち医師の務めはできるかぎり、健康な方の乳房に近い美しい乳房を再建することです。はじめに乳がんの手術方法はどのようなものがあるかを説明します。

(1)定型的乳房切断術(胸筋合併切除術)
乳腺を含めた乳房の全部が切除され、大小胸筋などの胸の筋肉も切除されるため、胸の肋骨の形が外から浮き出て見え前胸部の変形が目立ちます。以前はこの手術方法が主体でしたが、現在はあまり行わない施設が多いようです。しかし、進行がんではやむをえずこの手術方法が行われています。
(2)非定型的乳房切断術(胸筋温存術)
乳腺を含めた乳房を全部切除されますが、前胸部の皮膚と脂肪、大胸筋は温存されます。この方法では筋肉を切除しないため、前胸部の変形が比較的少ないのが特徴です。現在、乳房全摘術ではこの手術方法が行われています。
(3)皮下乳腺全摘術
できる限り健康な皮膚と脂肪を残して乳腺を全部摘出する方法です。わかりやすくいえば乳房の外側の袋が残るという手術です。この方法では乳がんの手術時に乳房を再建するので乳房の形が温存されます。乳がんの進行の度合によってこの手術を受けられるかどうか限定されます。
(4)乳房温存術
乳がんのある部の乳腺を部分切除する方法です。がんの大きさが3cm以下の方が適応になります。この手術方法では乳腺を部分切除するため、乳房の変形が生じます。小範囲の切除であれば変形は少なくてすみます。また、残した乳腺に対して術後に放射線療法が行われます。
最近は乳がんが早期に発見されるため、乳房温存術を受けられる方が多くなりました。

以上のように大きく分けると4つの手術方法があるのでそれらに合わせた乳房の再建方法が用いられます。

乳房再建の時期について

乳房再建の時期は乳がんの手術の際に行う一期再建と、乳がん術後に行う二期再建とがあります。一期再建は手術回数・費用の軽減になることが、最大のメリットです。デメリットは、一期再建は乳がんの診断がついた、精神的に不安定な時期に重なり、考える時間が少ないことです。一期再建の希望があるかまたは悩まれている方は、早めに主治医に御相談下さい。二期再建は、乳がんの治療がひと段落ついた頃(一年目以降)に行いますので、手術の必要性や手術方法をゆっくり決めることが出来ます。手術回数・費用に関しては一期再建に比べて多くなります。再建の意志が固い場合は一期再建が良いでしょうし、悩まれているのであれば焦らずに二期再建でも良いかもしれません。

乳房の再建方法について

乳房の再建法は大きく分けて、自家組織による再建と組織拡張器を用いた人工乳房による再建があります。

(1)自家組織による再建
患者さん自身の体の一部の組織を胸に移植する方法です。腹直筋皮弁を用いた再建(腹部の皮膚と脂肪と筋肉に血管をつけて前胸部に移植して乳房をつくる)と広背筋皮弁を用いた再建(背中の皮膚と脂肪と筋肉に血管をつけて前胸部に移植して乳房をつくる)の2つの方法があります。なぜ乳房をつくるのに筋肉と血管が必要かといいますと乳房をつくるのに必要な大きさの皮膚と脂肪組織は筋肉から入る血管がないと生きないからです。従って、単なる脂肪移植では乳房は再建できません。この手術法の利点は自分の組織で再建されるため、違和感がないことです。しかし、胸に他の部位の組織が移植されるため、胸と他の部位に傷あとが残ります。また、胸に他の部位の皮膚が移植されるため、その部位の知覚が鈍くなります。
  1. 腹直筋皮弁による乳房再建

    腹直筋皮弁による乳房再建

    適応となるのは、

    1. 定型的乳房切断術後で広い組織欠損がある場合
    2. もう一方の乳房が大きく、大きな乳房をつくる必要がある場合
    3. 整容的な配慮をする場合(下腹部の脂肪が多く切除を希望した場合)

    です。

    適応とならないのは将来妊娠出産の予定のある場合や腹部に手術の傷あとがある場合などです。

  2. 広背筋皮弁による乳房再建

    広背筋皮弁による乳房再建

    適応となるのは、

    1. 若い人で将来妊娠出産の予定のある場合
    2. 比較的小さな乳房をつくる場合
    3. 腹部に手術の傷あとがあるため腹直筋皮弁が使用できない場合

    などです。

    適応とならないのは腋窩のリンバ節廓清時に広背筋皮弁を栄養している血管がなくなった場合です。

(2)組織拡張器をもちいた人工乳房による再建

組織拡張器をもちいた人工乳房による再建

組織拡張器という人工の装置を胸の筋肉の下に留置し、徐々に皮膚皮下組織を乳房の形に膨らませて人工乳房に入れ替えるという再建方法です。ちょうど女性が妊娠したときに徐々にお腹が膨らんでいくのと似ています。組織拡張器をいれた後、2-3週間に1回の割合で4-6カ月くらいの期間に外来で生理食塩水を組織拡張器に注入していきます。注入時間は10分程度の短時間です。この手術は胸の手術のみで他の部位に傷がつかない、手術時間が短い、胸の皮膚を拡張するので整容的に優れ、知覚も温存されるなどの優れた利点があります。このため、一期再建では良く用いられ、若い人では第一選択とされることが多い再建法です。

組織拡張器と入れ替える人工乳房は生理食塩水バッグとシリコンバッグ用いられています。生理食塩水バッグは破損しても、体の約60%は生理食塩水と同じ成分なので体内に吸収されてしまうので問題ありません。乳房再建に多く用いられているシリコンバッグはコヒーシブ(固着性)シリコンバッグです。破れても中身が外に撒布されないように工夫されています。過去に使用されて問題となっていたシリコンバッグは液状シリコンがはいっていたため破れると中身が体内に流出し、撒布されるため摘出するのが大変でした。そうしたシリコンバッグとは異なります。

ここでお話した人工乳房は強い素材でできていますが、人工物ですからときに破損の可能性もなくはありません。MRI検査で破損の確認ができます。その際は再度バッグを入れ替えることが可能です。組織拡張器による乳房再建の適応は(1)整容的な配慮を第一優先とする場合(乳房の形に膨らませることができるので形がきれい)、(2)胸の手術のみで体の他の部位に手術の傷あとをつけたくない場合。適応とならないのは定型乳房切断術が施行されており、胸の筋肉がない場合です。これは、組織拡張器は胸の筋肉の下に挿入することで安全に膨らますことができるのであって、皮膚直下に挿入した場合、露出する恐れがあるからです。

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3. 治療により期待される結果

再建された乳房は反対側の乳房に近づけることはできますが、全く同じにつくることはできません。やはり神様が創造した乳房を再建するのは難しいものです。しかしながら、近年再建方法も進歩していますので、左右対称性の美しい乳房が再建できるようになってきました。加齢による健康な乳房の形の変化は再建乳房では同じように下垂しないと考えてよいです。

乳房を再建したのち、約6カ月経過してから乳頭乳輪の再建を行います。通常乳頭は、健側の乳頭の一部を利用するか、再建した乳房の一部の組織をつかって作成します。乳輪は鼠径部の皮膚を移植したり、医療用の色素で色を付けることができます。乳頭乳輪の手術は入院しないでおこなう場合もあります。

乳がんの手術の傷あとは消えることはありませんが、乳房再建のときにできるだけ目立たない傷あとに変えることはできます。組織拡張器を用いた人工乳房よる再建では胸のみに目立たない傷あとが残ります。腹直筋皮弁による乳房再建では胸と下腹部つまり下着に隠れる部分に目立たない傷あとが残ります。広背筋による乳房再建では胸と背中に目立たない傷あとが残ります。背中は横の傷あとはブラジャーで隠れますし、また縦の傷あとは背中の外側に位置するので背中の開いた洋服や水着を着ても目立ちません。

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